花粉症の季節が近づいてきました
季節性アレルギー性結膜炎
(花粉症)
新年に入り、今年も花粉症のシーズンが近づいてきました。日本人のアレルギー性結膜疾患の有病率は2017年の調査で48.7%と報告されており1)、1993年の調査開始時から年々増加しています。アレルギー性結膜疾患の中でも花粉が原因のアレルギー性結膜炎を季節性アレルギー性結膜炎と呼んでおり、全体の約45%を占めています。花粉の中でもスギ・ヒノキが原因のものが代表で、花粉の飛散時期に目のかゆみ、涙っぽさ、ゴロゴロ感を自覚します。毎年多くの方が発症し、日常生活に支障をきたすこの疾患について今回はお話ししたいと思います。
2024年の各地域の花粉飛散傾向(北海道はシラカバ、その他はスギ・ヒノキ)
まず気になる今年の花粉飛散量ですが、昨年は北海道と東北の北側を除く地域で例年より多い飛散量となっていたため、今年は前シーズン比では北陸・関東甲信は少なく、九州・四国・中国・近畿はやや少なく、東海は前シーズン並みの見込みです。昨年少なかった北海道は600%以上で非常に多い見込みです。また、例年に比べると九州・四国・中国・東海・北陸・関東甲信はやや多く、近畿・東北は多く、北海道は非常に多くなる予想となっています。
(日本気象協会より)
季節性アレルギー性結膜炎の症状と原因
多くの患者様を悩ませるのが目のかゆみです。アレルゲンである花粉が結膜に侵入すると、肥満細胞という細胞から、ヒスタミンなどの物質が大量に放出されます。これらの物質は、結膜の知覚神経や毛細血管などを刺激して、強いかゆみや充血などの炎症を引き起こします。目をこすることでさらに症状が悪化し、結膜や角膜を傷つけ、ゴロゴロしたり、かすんだり、まぶしく感じたり、痛みが出たりします。その他にも涙や目やにが多く出ることもあります。
(参天製薬HPより)
原因となる花粉の飛散時期は
アレルギー性結膜炎の原因となる植物は約60種類あり、風によって花粉が運ばれるという共通点があります。日本は南北に長いため花粉の飛散時期は地域によって様々です。原因として最も多いスギ花粉は南の方で2月上旬から飛散し始め、気温の上昇に伴って次第に北上し、4月中旬まで続きます。
(東京の花粉カレンダー、東京都保健医療局)
季節性アレルギー性結膜炎の治療
アレルギー症状を抑えるために予防および対症療法を行います。使用する薬剤には抗アレルギー薬とステロイド点眼薬があり、抗アレルギー薬にはかゆみを引き起こすヒスタミンを直接抑えるヒスタミンH1受容体拮抗薬と、ヒスタミンなどを増やさないようにするメディエーター遊離抑制薬の2種類があります。ヒスタミンH1受容体拮抗薬は痒みや充血などの症状に早く効果が出る即効性があり、メディエーター遊離抑制薬は安定して効果が出るまで2週間程度がかかりますが、アレルギー症状が出現するのを抑える効果があるため後述する初期療法に使用されることが多いです。即効性の作用で症状が落ち着いたからと使用を中断してしまうとその後の点眼の効果が弱くなってしまうため、安定した効果が得られるように花粉の時期は継続して点眼することが大切です。
症状が強い時期にはステロイド点眼薬を併用しますが、自覚症状を伴わない眼圧上昇などの副作用もあるため、使用する際には眼圧チェックを含めた定期検査が必要となります。この眼圧上昇の副作用は特に小児で頻度が高く、慎重な使用が求められます。
また、花粉飛散開始予測日の2週間前、もしくは少しでも症状が現れた時点で抗アレルギー点眼薬の使用を開始する治療を初期療法と言い、アレルギー症状が出る時期を遅らせ、ピーク時の症状を軽減する2)ことができます。
アレルギー性鼻炎などの花粉症状があり、抗アレルギー点眼薬だけでは効果不十分な症例には抗アレルギー薬の内服も併用しますが、アレルギー性結膜炎だけでは保険適用されません。
抗アレルギー点眼薬一覧
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メディエーター遊離抑制薬
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・アレギサール®点眼液 0.1% ペミラストン®点眼液 0.1%(一般名ペミロラストカリウム)
・リザベン®点眼液 0.5% トラメラス® 点眼液 0.5%(一般名トラニラスト)
・ケタス®点眼液 0.01%(一般名イブジラスト)
・ゼペリン®点眼液 0.1%(一般名アシタザノラスト水和物)-
ヒスタミンH1受容体拮抗薬
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・ザジテン®点眼液(一般名ケトチフェンフマル酸塩)
・リボスチン®点眼液 0.025%(一般名レボカバスチン塩酸塩)
・パタノール®点眼液 0.1%(一般名レボカバスチン塩酸塩)
・アレジオン®点眼液 0.05% アレジオン®LX 点眼液 0.1%(一般名エピナスチン塩酸塩)
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ステロイド点眼薬一覧(作用による分類)
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作用 強 リンデロン0.1%(一般名ベタメタゾン)
サンテゾーン0.1%(一般名デキサメタゾン)
中 サンテゾーン0.02%(一般名デキサメタゾン)
リンデロン0.01%(一般名ベタメタゾン)
フルメトロン0.1%(一般名フルオロメトロン)
弱 フルメトロン0.02%(一般名フルオロメトロン)
花粉を回避・除去するためのセルフケアが大切です
アレルギー性結膜炎の対策のポイントは、日常生活でできるだけアレルゲンに触れないことです。目のかゆみを抑えるために以下の対策をしてみましょう。
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外出時はマスクや眼鏡、つば付きの帽子を着用し花粉が目に入らないようにしましょう。また、コンタクトレンズに付着する眼脂などの汚れが結膜炎を悪化させてしまうため、症状が強い方は可能な限り花粉の飛散時期は使用を控え眼鏡での生活に切り替えましょう。コンタクトレンズを使用する場合は防腐剤フリーの抗アレルギー薬や人工涙液を使用します。
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花粉が目に入ったときには、洗眼薬で洗いましょう。カップ付きの洗眼液は防腐剤の濃度が高く、また、皮膚に付着した花粉を目に入れてしまうことになるため、防腐剤の入っていない点眼タイプのものを使用しましょう。防腐剤の入っていない人工涙液の点眼薬を使用しても問題ありません。冷蔵庫で冷やしてから使用することでクーリング効果により症状が軽減することもあります。
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家の中に花粉を入れないために洗濯物は室内に干しましょう。布団は布団乾燥機を使用することが望ましいですが、外に干した場合でも掃除機を使用することで花粉を除去することが可能です。室内の掃除は掃除機以外にもモップ掛けや濡れ雑巾での掃除も効果的です。また、帰宅時は衣服や髪に付いた花粉を払い落とすと共に、手洗い、うがい、洗顔をするようにしましょう。
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いかがでしたでしょうか。毎年多くの方を悩ませる花粉症についてお話しさせて頂きました。季節性のため避けることはできませんが、少しでも症状を軽くするために予防と治療をしっかりと行い乗り越えましょう。
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参考文献
1)Miyazaki D, Fukagawa K, Okamoto S, Fukushima A, Uchio E, Ebihara N, et al:Epidemiological aspects of allergic conjunctivitis. Allergol Int:487-495, 2020.
2)海老原伸行:季節性アレルギー性結膜炎における イブジラスト点眼予防投与の効果. あたらしい眼科 20:259-262, 2003.
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